インタビュー

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『世界基準』で日本をリードする人材を育成する JFAアカデミー福島の挑戦

JFAアカデミー福島 統括ダイレクター(男女)山口隆文さん 、JFAアカデミー福島 総務 堤葉子さん

 これからのSAMURAI BLUE(サッカー日本代表)や、なでしこジャパン(サッカー日本女子代表)を牽引する“未来のアスリート”たちは、どのような環境で育ち、どんな努力を重ねて世界へ羽ばたいていくのでしょうか。技術を磨き、厳しいトレーニングに挑み、時には挫折を経験しながらも成長を続ける。その背景には、指導者の熱意や支援の仕組み、そして選手自身の揺るぎない覚悟があります。

 福島県楢葉町、広野町をまたぐ東京ドーム約10個分の広大な敷地に、全天候型練習場や天然芝ピッチ8面などを備えるナショナルトレーニングセンター・Jヴィレッジ。ここを拠点とするJFAアカデミー福島からは、なでしこジャパンの谷川萌々子選手をはじめ数多くの選手を輩出してきました。(※東日本大震災の発生を受け、谷川選手の在籍期間を含む2011年度から2023年度は静岡県で活動)

 今回はJFAアカデミー福島で統括ダイレクターを務める山口隆文さん、総務の堤葉子さんへ取材し、未来のトップアスリートが育つ現場、その成長を支えるスポーツくじの助成金について伺いました。

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谷川萌々子ら次世代のスターを育んだJFAアカデミー福島

int_168_2 中高6年間をJFAアカデミー福島(当時は静岡県内で活動)で過ごした谷川萌々子選手 [写真]=JFA

 JFAアカデミー福島で過ごした中高生時代を経て、日本を代表するトップアスリートとして大きく成長した谷川萌々子選手。彼女はアカデミーに入校した中学1年生の時点で、すでに高い技術を持っていました。

「特に驚いたのは、左右の足でほとんど差がなくボールを蹴れること。これは非常に大きな強みでしたね。おそらく、入校前のクラブでの指導が行き届いていたことが影響していると思います」そう話すのは、JFAアカデミー福島で谷川選手を5年間指導した山口隆文統括ダイレクター。1979年に筑波大学蹴球部の主将となった山口さんは、第28回全日本大学サッカー選手権大会で優勝するなど輝かしい成績を数多く残してきました。現役引退後は後進の指導に尽力、2019年にはJFAアカデミー福島の女子U-18監督に就任しました。谷川選手と出会ったのは彼女が中学2年生の時でした。

int_168_3 卒校後、アカデミーに“里帰り”した谷川萌々子選手と、記念の2ショット [写真]=谷川選手提供

「JFAアカデミー福島入校当初から、彼女のテクニックの高さは際立っていました。一方で、フィジカル面ではまだ成長の余地がありましたが、アカデミーでのトレーニングを通じて、スピードや持久力を磨き、対人プレーの強さを身につけました」

 谷川選手の成長は、技術やフィジカルの向上にとどまりません。精神的な部分でも大きな変化が見られました。(中学年代から)高校生やなでしこリーグのクラブなどワンランク上の選手たちとプレーすることで、試合中の判断力が養われ、自ら考え行動する力が身についたと山口さんは振り返ります。

「指導者が一方的に教え諭すのではなく、自ら課題を発見し、それを乗り越える力を養うことを重視しました。この積み重ねが『自立』と『自律』を促し、彼女のリーダーシップの成長にもつながったのだと思います」

JFAアカデミーの育成哲学に“サッカー”の文字はない

int_168_4 練習開始前、選手たちに気さくに話しかける山口さん

 JFAアカデミー福島では、男子は中学1年生から中学3年生、女子は中学1年生から高校3年生までの選手が寮生活を送りながら学んでいます。小学校6年生の時に選考試験を受け、親元を離れて練習に打ち込む日々。慣れないうちは寂しさを感じたり、サッカーも学業も思うようにいかず思い悩んだりする時期も当然あるはずです。

「そうした困難な場面では、仲間同士で支え合ったりスタッフがサポートしたりしながら成長を促しています」そう話すのは、JFAアカデミー福島 総務の堤葉子さん。彼女は自身も大学まで選手としてプレーし、2006年にJFAアカデミー福島の総務に就任すると、間に別のサッカー関連の職務を経験しつつ、通算15年ほどアカデミーの総務を務めてきました。

int_168_5 総務として選手たちの成長を見守り続けてきた堤さん

「JFAアカデミー福島のフィロソフィーは、『常に(どんなときでも、日本でも海外でも)ポジティブな態度で何事にも臨み、自信に満ち溢れた立ち居振る舞いのできる人間を育成する』というもので、“サッカー”という言葉が一言も入っていません。それは、サッカーの技術を磨くことが最終目的ではなく、その先にある人生の選択肢を広げることが育成の本質だからです。どんな環境でも自分の力で道を切り拓ける人材を育てる——これこそがアカデミーの真の狙いです」

 一方、山口さんは選手たちに「“24時間のグッドデザイナー”になれ」と伝えています。良いトレーニングを行うためには、学業や食事の管理もとても重要。学校の成績が悪くて集中できなかったり、食事がうまく摂れずに力が出なかったり、睡眠不足がメンタルに影響を与えていたりすれば、当然パフォーマンスにも悪い影響を与えると指摘します。

int_168_6
int_168_7 選手たちは自らの意志で24時間を“デザイン”、夕食後には自習の時間も設けられている

「学校の勉強や寮での生活も、いかにトップアスリートとしての意識を持って過ごせるかを指導しています。アカデミーに来るということは、人生の選択肢の中からサッカーを選び、それに全力を注ぐ覚悟を持つということ。そのためには、自分を律する力が必要になります。トップアスリートは『身体の表現者』であり、サッカーはダンスや歌と同じように人々を感動させる表現の一つです。そう考えれば、生徒たちはただの『サッカー好きのプレーヤー』で終わるのではなく、『今、この時間に何をしなければならないのか?』を常に考え、目指すべき選手像から逆算して日々を過ごすことが重要だとわかるはずです」

運営にはスポーツくじの助成金が活用されている

int_168_8 夕食のひとコマ…質の高い練習で消費したエネルギーを、おいしい食事で補う

 JFAアカデミー福島の活動は、スポーツくじの助成金が活用されています。この助成金は、選手たちが安心して競技に集中できる環境を整えるために欠かせません。

「寮での食事の提供にも助成金が活用されています。栄養バランスの整った食事を継続的に提供できることで、選手たちは常にベストなコンディションを維持し、競技に集中できます。また、遠征は日帰りできる範囲に限らず、九州や北海道などに行くこともあります。その際の移動費や宿泊費にも助成金があてられています」(堤さん)

int_168_9 選手が遠征や通学等の移動時に使用するバスにはスポーツくじのロゴが

 山口さんも、「スポーツくじの助成金は、サッカー界だけでなく、スポーツ界全体を支える重要な財源」と話します。「今後、スポーツがこの国の文化としてさらに根付いていくためにも、こうした助成の存在は欠かせません。プレーする選手にとっても、指導者にとっても、そして国民にとっても必要不可欠なものです」

 アカデミー環境の更なる充実にも助成金を活用していきたいと山口さんは言います。「選手たちが最高の環境でトレーニングを積めるよう、改善を進めていきたいと考えています」

int_168_10 アカデミーやサッカー界だけでなく、スポーツ界全体を俯瞰して語る山口さん

『世界基準』で日本をリードする人材を輩出するために、JFAアカデミー福島はあり続ける

 JFAアカデミー福島では、選手たちが世界の舞台で戦える力を身につけることを目指しています。実際、高校卒業後に海外へ挑戦する選手も増えており、直近2年間で3人が海外クラブへと進みました。その中の一人がJFAアカデミー福島13期生である谷川萌々子選手(FCバイエルン・ミュンヘン所属)です。

int_168_11 ドイツの強豪、FCバイエルン・ミュンヘンでプレーする谷川萌々子選手 [写真]=FC Bayern

「こうした選手たちが海外のプロリーグで活躍し、さらになでしこジャパンに加わって結果を残すことで、後輩たちにとっての身近な目標になります。同じアカデミーでプレーした先輩たちがトップレベルで活躍する姿を見れば、次の世代の選手たちも自然と高みを目指すようになる。こうした好循環が生まれることを期待しています」(山口さん)

『世界基準』で活躍するためには、英語力も必要です。英語を使えるということは、まさに“世界へのパスポート”を手にすること。アカデミーの選手たちには、サッカーだけでなく言語の壁を越えられるスキルの重要性も日々伝えています。

int_168_12 なでしこジャパンに名を連ねる古賀塔子選手(右端)や谷川萌々子選手(右から2人目)はJFAアカデミー福島を卒校後すぐ海外クラブでプレー [写真]=JFA

「今後は広い視野を持ち、異なる文化圏のチームメイトとコミュニケーションをとりながらプレーできる選手を育成する必要があります。アカデミーでそういった教育を受けた選手たちが若いうちから海外に挑戦し、厳しい環境で経験を積むことが不可欠です。その過程を経て成長したJFAアカデミー福島出身の選手たちが、世界の頂点を狙う存在になってくれることを期待しています」(山口さん)

 育成の段階から『世界基準』を意識し、常にグローバルな視野を持ちながら活動を続けていく。JFAアカデミー福島は、選手たちが世界へ羽ばたくための育成の拠点であり続け、これからも未来のトップアスリートたちが巣立っていくことでしょう。

(取材:2025年1月)

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JFAアカデミー福島
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 日本サッカー協会(JFA)が、福島県、広野町、楢葉町、富岡町と連携して2006年に設立したサッカー選手のエリート教育機関。東日本大震災の影響で2011年から静岡県御殿場市へ一時移転しましたが、順次福島での活動を再開し、2024年に全面的に福島に戻りました。

「常に(どんなときでも、日本でも海外でも)ポジティブな態度で何事にも臨み、自信に満ち溢れた立ち居振る舞いのできる人間の育成」を目的としており、男子は中学3年間、女子は中学高校の6年間にわたってJヴィレッジ近郊の寮で生活を送ります。

 運営にはスポーツくじの助成金が活用されており、サッカーはもちろん、社会をリードしていける真の世界基準の人材育成を目指し指導が行われています。また、女子では谷川萌々子選手だけでなく古賀塔子選手や北川ひかる選手、守屋都弥選手など多くの日本代表選手を輩出しています。

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