インタビュー

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スポーツと地域の未来を明るく照らす…小中学校の夜間照明
小武海佑人さん(横浜市 にぎわいスポーツ文化局 スポーツ振興課)、赤﨑しのぶさん(柏尾小文化・スポーツクラブ)、杉田魁聖さん(フットアールスポーツクラブ コーチ)
誰もが気軽にスポーツに親しめる環境の確保が期待されるなか、全国の公共スポーツ施設は、施設の老朽化や人口減少等の影響からその数が減少することが想定され、持続可能な地域スポーツ環境の確保のため、小中学校のグラウンドや体育館といった学校体育・スポーツ施設を有効活用する動きが広がっています。中でもニーズが高まっているのが夜間利用です。仕事や学校が終わった後の夜間時間帯を活用し、より多くの住民がスポーツに参加できる場づくりに期待が寄せられています。
そんな地域住民の期待に応えているのが、横浜市にある横浜市立柏尾小学校です。今回は夜間照明の設置を行った横浜市、柏尾小学校のグラウンドの地域開放活動を行う「柏尾小文化・スポーツクラブ」、グラウンドを利用しているサッカークラブ「フットアールスポーツクラブ」を取材し、地域住民や利用者の双方のニーズを満たす取り組み、今後の展望、またスポーツ振興くじ助成について伺いました。

普及の障壁となっているものとは? 夜間照明設置における課題
現在、政令指定都市では平均24.7%の小中学校に夜間照明が設置されています。しかし、横浜市の小中学校における夜間照明設置率は4.7%と、政令指定都市平均を下回る状況にあります(出典:横浜市資料、設置率は令和3年時点)。横浜市には470以上の小中学校があり、限られた予算の中で効果的に夜間照明設置校を選定していくことが期待されています。
また、設置に際しては周辺住民への配慮・合意形成が重要です。特に住宅が密集する都市部では夜間の明かりや活動音に対する住民の理解を得ることが不可欠です。
さまざまなハードルをクリアしながら、夜間照明の普及を推進しているのが横浜市 にぎわいスポーツ文化局 スポーツ振興課です。同課の小武海佑人さんは、地域でスポーツを気軽に親しむ機会を創出し、スポーツ実施率を向上するため、事業に取り組んでいると語ります。
「横浜市では地域のニーズを重視した設置方針を取っています。住民からの要望があった学校へ夜間照明の導入を行っており、スポーツ実施率の向上、そしてスポーツを通じた賑わい創出のために業務に取り組んでいます」

地域住民との真摯な対話によってスムーズな導入が実現
横浜市はこれまで25校の小中学校に夜間照明を設置してきました。その中でスポーツくじの助成金の対象となった3校のうちの1校が、横浜市戸塚区にある柏尾小学校です。
周辺地域のグラウンドや体育館は慢性的に利用枠が埋まっていることに加え、夜間利用可能な照明付きグラウンドが少ないため、柏尾小学校は近隣のスポーツチームにとって貴重な活動場所。現在は週6日程度、18時〜20時の時間帯に、地域のスポーツクラブが利用しています。


柏尾小学校のグラウンドの地域開放活動を行う「柏尾小文化・スポーツクラブ」の赤﨑しのぶさんは、夜間照明の設置に関わった一人です。横浜市と地域住民をつなぐ役割を果たしてきました。
「近隣の方々が一番心配しているのは騒音と光害です。そういった問題が起こらないよう利用時間や利用に関するルールを決め、照明の位置や角度を調整してもらいました。横浜市の方々が住民への説明会を開催するなど丁寧にご説明くださったので、設置はスムーズに進んでいきましたね」

特筆すべきは、設置工事完了後も継続的な点検や調整を行っている点です。照明設置直後に「ライトが眩しい」という近隣住民からの声が寄せられたものの、光源の角度を調整するなどの対応がすぐさま行われました。
また、夜間のグラウンド利用につきものである騒音に関するご意見はこれまで上がっていないそうです。住民の声に耳を傾け、対話を重ねたことによって「地域の方々からの理解が得られているのではないでしょうか」と赤﨑さん。
小武海さんも「設置の2年ほど前から、地域の皆様や学校開放の運営団体の皆様と打ち合わせの機会を設け、地域住民説明会や試験点灯を行い、地域の皆様からご意見をいただいた上で調整を行っています」と説明します。住民との継続的な対話が良好な関係構築に繋がっているのです。
「夏場の練習では明らかな違いが」選手たちの疲労軽減も実感
横浜市内に拠点を置き、U-13からU-15までのカテゴリーで活動するサッカークラブ「フットアールスポーツクラブ」は柏尾小学校のグラウンドを利用している団体の一つです。
周辺地域には夜間照明設備のあるグラウンドは少なく、なかなか空きがない状況。夜間に利用可能な施設を探す中で柏尾小学校の存在を知り、すぐに利用を申し込んだとコーチの杉田魁聖さんは話します。
「柏尾小学校を毎週金曜日に利用しています。選手たちは学校があるので、17時以降にしか集まることができません。そのため、夜間照明があることが練習場探しの必須条件でした。室内のフットサル場で練習をすることもあるのですが、柏尾小学校のグラウンドは広さはもちろん、照明もあるので理想的な環境ですね」

夜間照明によるメリットはそれだけではありません。日中と夜間では光源の違いによって、グラウンド上でのボールの見え方が異なります。普段から夜間照明設備のあるグラウンドを利用することで、選手たちは公式戦のナイターゲームに近い環境で練習ができるのです。さらに、真夏の練習においては選手への負荷が大きく軽減することを杉田さんは強調します。
「夏場の練習では選手たちの翌日のコンディションに明らかな違いが現れますね。日中に練習した翌日はやはり(気温や日光等の影響で)身体に疲れが残りますが、夜間練習であれば翌日にもしっかりと動くことができます。選手たちも環境によるメリットを実感しているようです。
夜間照明がついている施設が増えていけばサッカーの発展はもちろん、子どもたちの成長にもつながっていくはずです。スポーツを通じて、子どもたちに成長の機会を提供できるよう指導していきたいですね」
夜間照明設備によって地域のハブとなるグラウンドへ
また、スポーツのみならず、地域行事での活用も行われています。地域のお祭りの会場として柏尾小学校のグラウンドを利用する町内会の方々はこれまで暗い中で設営や撤収などの作業を行なっていました。設置後、「照明がついたことで作業がしやすくなり助かっている」という喜びの声が赤﨑さんの元へ届くなど、夜間照明が地域交流の一助にもなっていることがうかがえます。

加えて、柏尾小学校の夜間照明は停電時も点灯できる仕様となっており、夜間の災害発生時に避難所開設を想定した防災拠点訓練を実施するなど、活用が広がっています。さらなる地域防災力の向上のため、地域防災拠点運営委員会では「避難所に泊まる」をテーマとした拠点防災訓練を2025年度に検討しているということです。

スポーツには人と人を繋げ、地域を明るく照らす力があります。赤﨑さんは、柏尾小学校のグラウンドが地域のハブとして活用される未来に期待を寄せます。
「現在利用されている方だけでなく、運動と疎遠になっている地域の方々など、もっと多くの方に利用していただけたら嬉しいですね。そういう人がいっぱい増えて、『ちょっと運動したいな』と気軽に利用いただける場所になれば、もっと地域が活性化していくと思います。将来、このグラウンドで練習していた子どもが有名な選手になったらなんて、想像してしまいますね」
これまで夜間照明の設置を進めてきた成果は、スポーツ実施率の増加に結びついています。本助成は年1校までに限られているため、設置を広げていくには長期的な取り組みが必要ですが、地域の理解と協力を得ながら、安全で充実した地域生活の基盤づくりを進めていきたいと小武海さんは意気込みます。

「スポーツ振興課では、横浜市民(成人)の週1回以上のスポーツ実施率を令和8年度には70%まで高めることを目標の一つとしています(令和5年度は49.3%)。地域の方々の身近な場所でスポーツを行う場を確保することで、地域で気軽にスポーツに親しめる機会を創出できると考えています。また、地域の方々の安全確保の場として、そして地域コミュニティの活性化にも貢献していけるよう引き続き取り組んでいきます」
夜間照明が照らすのはグラウンドだけではありません。スポーツと地域の未来を明るく照らす設備として、今後も夜間照明の普及と活用が期待されています。
(取材:2025年2月)

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