インタビュー

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「楽しい」だけでは届かない場所へ 安楽宙斗が掴みにいく夢
ユメミルノート vol.9|スポーツクライミング 安楽宙斗選手
闘い抜くアスリートたちはこれまでにどんな夢を掲げ、叶えてきたのでしょう? そして、その夢のためにどのような努力をし、失敗や苦労を乗り越え、どんな人やものに支えられてきたのでしょうか。そんなアスリートの夢を紐解く連載「ユメミルノート by スポーツくじ」。第9回は、スポーツクライミングの安楽宙斗(あんらくそらと)選手が登場。
パリ2024オリンピックで銀メダルを獲得し、若くして世界の頂点を争う存在となった安楽選手。その言葉から浮かび上がってきたのは、感覚だけでなく論理で自分を鍛え続ける姿でした。
アスリートの強さは、身体能力だけで決まるものではありません。スポーツクライミングのように瞬間的な判断が求められる競技では、「どう考えるか」という思考そのものが結果を左右します。安楽選手は、感覚や感情といった曖昧な要素を言語化し体系化することで、自身のパフォーマンスを高めてきました。成功も失敗も感覚のままにせず、構造として捉え直す。その積み重ねが、世界の舞台で戦う現在の姿に繋がっています。その思考の背景と、夢との向き合い方に迫りました。
自分で考える力を育ててくれたコーチとの出会い
安楽選手が小さい頃に思い描いていた夢は、警察官になることでした。理由はとてもシンプルで、「かっこいいから」。本人も「5歳ぐらいなので、全然何も考えていなかったと思います」と振り返りますが、そのまっすぐな感性は、現在に繋がる夢の原点だったのかもしれません。
初めてクライミングの大会に出場した時の安楽選手 [写真]=本人提供
その後、小学校低学年の頃にクライミングと出会います。当時は競技としての意識よりも、ひたすら「登ることが楽しかった」のだそう。大会に初めて出場した時も、「勝ちたいと思って出たわけではなかった」といいます。親に勧められて参加した全国規模の大会で7位に入り、「意外と自分って強いんだな」と感じたことが、幼い安楽選手にとって最初の手応えになりました。
競技への向き合い方が大きく変わったのは、小学6年生になる直前に出会ったコーチの存在です。今も定期的に指導を受けている田中星司コーチは、安楽選手にとって「考え方を育ててくれた存在」だといいます。
「田中コーチは論理的にトレーニングを組み立てるスタイルで、練習量や強度だけでなく、メンタル面への影響まで考慮して計画を立てる。それが僕の性格と相性が良かったんです。僕はなるべく論理的に考えて何をするか決めたいタイプ。たとえば競技中に焦ってしまうのであれば、普段から焦らないように登るトレーニングをしたり、感情的な部分についても論理的に捉えて練習を組んだりするようにしています。
僕は自分の感覚的なものを言語化することを大事にしていて、田中コーチは科学的にアプローチすることが上手なので、今はその科学的な面と自分の感覚を融合させている感じです。一方で、田中コーチはすべてを細かく教えてくれるタイプではありませんでした。特にボルダー種目については自分で考えなければいけない部分も多くて、自然とセルフコーチングの力が身につきました」
自分の感覚を言語化し、それをコーチの科学的な視点と組み合わせる。その積み重ねが、今の安楽選手の強さの土台になっています。
「楽しい」から「生活」へと変わったクライミング
中学生の頃までは、クライミングはあくまで「楽しいからやるもの」。しかし今では生活の中心になっています。現在19歳の安楽選手にとって、2025年は高校卒業後の進路に悩んだ年でした。大学進学という道もありましたが、「人生は一回きりだから挑戦したい」という思いから、競技に専念することを決断します。
大きな転機となったのは2023年、高校2年生の頃にワールドカップで結果を残し、ボルダーとリードの両種目で年間総合優勝を果たしたこと。さらに、パリ2024オリンピック・アジア大陸予選に優勝してオリンピックの出場権を獲得したことで、競技で生きていく未来が現実的な選択肢となります。
高校1年生の時、シニア初挑戦となった2022年のコンバインドジャパンカップで優勝 [写真]=本人提供
高校時代の3年間で輝かしい成績を残した安楽選手ですが、通っていた学校は県内屈指の進学校。活躍の裏では学業と競技の両立に追われる日々を送っていました。限られた時間の中で練習を続けることで、安楽選手はどうすれば効率良く強くなれるかを考える癖が身についたといいます。
「本当はもっと練習したいなと不満に思っていたのですが、少ない時間の中でやりくりしてきたことで、『とにかく長時間頑張る』とか、『とにかく辛い思いをして頑張る』という癖がつかなかったことは良かったと思います。その経験が、今の論理的に考えてトレーニングするスタイルに繋がっていると思います」
「悔しかった」パリオリンピック銀メダル
そんな安楽選手がこれまでに叶えた一番大きな夢は、やはり「パリ2024オリンピックでの銀メダル」。しかし、スポーツクライミング界にとっても快挙となったこの結果を本人は「自分の甘さが出た大会だった」と振り返ります。
パリ2024オリンピック表彰式でメダリストたちと写真を撮る安楽選手 [写真]=RvS.Media/Monika Majer/Getty Images
「他の選手が徹底してピークを合わせてくる中で、自分は大会に向けた長期的な準備が十分にできず、大きなミスをしてしまって2位に終わりました。自分の底力の強いところも出ましたが、精神面や考え方が及ばず悔しい大会になりました。ただ、ミスしても惜しい2位という結果は自信になりましたし、勝つために何かを変えなくてはいけないというモチベーションにも繋がったと思います」
この経験を経てトレーニングの考え方がさらに変化し、大会から逆算して準備を進める意識が強まったといいます。
「たとえば張り切りすぎて無理なトレーニングを組んでしまったり、精神的に前向きな状態じゃなかったりすると、それだけで効率が悪くなってしまう。高いモチベーションのまま続けられるようにトレーニングの量を調整しています。
大会で完成形にするために、その前の大会をどうするか、トレーニングをどうするかという逆算で考える癖がつきました。そのおかげで2025年にソウルで開催された世界選手権でも優勝することができたと思っています」
「楽しむ」から「勝つ」へと変わった意識
2025年からついにプロとしての道を歩み始めた安楽選手。かつては楽しむことを大切にしていましたが、今は勝つことを最優先にしています。ある種のプレッシャーを感じながらクライミングに打ち込むこと自体、自身を精神的に追い込んでしまうことはないのか、という質問を投げかけると「楽しむだけでは1位は取れないんです」という答えが返ってきました。
「プロとしてやっていくうえで重視されるのはやはり大会の順位です。結果のためにトレーニングをするとなると、楽しむだけでは足りません。2025年のシーズンは決勝の勝ち方を学びたいと思って、自分なりにいろいろ試したのですが、僕の場合は『楽しむ』意識だと大事な時に決められない。安定して勝つためには、追い詰められた時にプレッシャーに反発する爆発力がないとダメだとわかりました。
プロになる前の自分にとっては『楽しむ』ということが言い訳になっていた部分もあったなと思うんです。今は1位を獲るために練習からプレッシャーをかけて、勝つことを念頭に置いて大会に臨むようになったことは大きな変化だと感じます」
より大きな目標のために自分自身を客観的に捉え、「勝てる自分」を作り上げていく。それが19歳にしてプロになった安楽選手の現在進行形のマインドなのです。
「夢を叶えた自分を見せたい人は?」という問いには、迷わず「自分自身」と答えます。誰かのためではなく、自分が勝ちたいから競技に向き合っている──その姿勢が、言葉の端々から伝わってきます。
「これからの目標は、オリンピックでの金メダル獲得、そしてリード種目での世界選手権優勝です。そのために先を見据えてトレーニングを変化させていくことを大切にしています。同じことを続けるのは簡単ですが、それでは負けた時に敗因がわからないし、モチベーションも落ちてしまう。恐れずにトレーニングを変化させることで、一時的に失敗したとしても、最終的には安定して勝てるようになっていくと考えています」
若い世代の可能性を広げるスポーツくじの支援
安楽選手は、主にユース時代にスポーツくじの助成金による支援を受けてきました。そうした仕組みがあることについては「金銭的な支援があることで、挑戦できる機会が増える」と実感を込めて語ってくれました。
「スポーツは小さい頃にどんな経験をするかがすごく大事だと思っていて、それが大人になってからの考え方の土台にもなります。ただ、やはり若い時はお金もなくて、できることに制限も多い。その中で、スポーツくじの助成金があることでいろいろなプログラムや遠征の機会を得られるのはすごくありがたいことだと思います。支援があることで上に登り詰めるまでの過程がよりスムーズになるし、モチベーションにも繋がると思います」
スポーツクライミングの未来を担う存在として、自らを巧みにマネージメント/コーチングしながら前人未到の景色を目指している安楽選手。その姿は、夢を叶えるプロセスそのものを体現しているようでした。
スポーツくじの収益は、スポーツクライミングの普及・発展のためにも役立てられています。
地域のスポーツクライミング施設の整備や体験教室の開催、ワールドカップをはじめとする国際競技大会の日本での 開催など、スポーツくじの助成金が広く役立てられており、安楽宙斗選手ら日本を代表するスポーツクライミング選手の輩出を後押ししています。
スポーツくじの助成金は、スポーツクライミングをはじめとした日本のスポーツの国際競技力向上、地域におけるスポーツ環境の整備・充実など、スポーツの普及・振興のために役立てられています。
(取材:2026年3月)

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安楽 宙斗あんらく そらと
2006年11月14日、千葉県出身。小学校2年生の夏休みに近所のクライミングジムに父親と一緒に足を運んだことがきっかけでクライミングを始める。2018年から国内のユース大会に出場し、ボルダーとリード両部門で数々の優勝を経験。2023年にシニアに転向、IFSCクライミングワールドカップにて、史上初のボルダーとリードの2種目の王者となる。同年アジア大陸予選で優勝し、パリ2024オリンピック出場権を獲得。パリ2024オリンピックでは男子複合決勝で総合2位となり、スポーツクライミングで日本男子初の銀メダルを獲得。2025年にソウルで開催された世界選手権では全4つの課題で完登。男子ボルダー種目で初優勝を果たし、18歳で世界王者となる。
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